ビタミンDと妊娠力
いま注目の栄養成分「ビタミンD」。近年の研究で、妊娠力を高める働きがあることがわかってきました。草津レディースクリニックの森 敏恵先生に詳しく話をお聞きしました。
栄養バランスのとれた食事で
妊娠力を高めましょう
妊娠・出産を望まれる方にとって何より大切なのは、健康な体づくりです。なかでも食事は妊娠力を高めるための基本。ダイエットによる食事制限、外食やファストフード、インスタント食品の摂取など、不規則な食生活で栄養バランスが偏っていませんか? 食事の量があり、カロリーは充分とれていても、必要な栄養素が不足していることがあります。必要な栄養素が不足すると、貧血や冷え性をまねいて妊娠力の低下、胎児の成長、出生児の成人後の成長にも影響を及ぼすといわれています。また、食事には気をつけているから大丈夫という方も、その方向性が間違っていることもありますので、時々見直しが必要です。
妊娠力を高めるおもな栄養素には、皮膚・血管・筋肉など体の土台や、質の良い卵子をつくる「たんぱく質(肉・魚・卵)」、血液中のヘモグロビンをつくる「鉄(レバー・あさり)」、抗酸化作用があり、卵子の若返りや、血流・ホルモンの働きをうながす「ビタミンE(カボチャ・アボカド・ナッツ類)」、男性ホルモンを合成し、精子数や運動性を高める「亜鉛(カキ・ホタテ)」、赤ちゃんの健全な発育を助ける「葉酸(ほうれん草・レバー)」、子宮内膜をととのえる「ビタミンA(うなぎ・ほうれん草)」、精神を安定させる「カルシウム(牛乳・チーズ・小魚)」などがあります。
何かを重点的に摂取するのではなく、それぞれの栄養素をバランスよく摂ることがポイントです。1日3食の規則正しい食生活を基本に、少量多品種の食事を心がけましょう。
妊娠力を高める栄養素
いま話題のビタミンDとは?
最近注目されている栄養素のひとつに、ビタミンDがあります。日光を浴びることで皮膚のコレステロールから生成されるビタミンDは、血液中のカルシウム濃度を上げる働きがあり、健康な骨の形成にかかわっていることが知られています。ビタミンDが不足すると、骨の病気である骨軟化症、骨粗しょう症が増えます。
一方、ビタミンDを補うことで、がんの予防、感染症の予防、2型糖尿病の予防の可能性、さらに、子宮・卵巣・精巣・精子にもよい働きをすることがわかってきました。妊娠中にビタミンDが不足すると、母体や胎児へのリスク、出産のリスクが高くなります。また、卵胞発育障害、着床障害、免疫性の不育症といった不妊要因にもビタミンDが深く影響しているという報告もあります。
ビタミンDについては、1日15分の日光浴で必要量を生成できるといわれますが、女性にはむずかしい課題かもしれません。むしろ日焼け対策として、日焼け止めや日傘で、あえて日光を避けている人のほうが多いのではないでしょうか。日光を避ける生活がビタミンDの生成を抑え、ビタミンD不足につながっている皮肉な現状があります。
とはいえ、日焼けはできるだけ避けたいというのが女性の本音でしょう。そこで、不足するビタミンDを身近にある食品から摂取する方法もあります。ビタミンDを含む食品には、鮭・カツオ・しらす干し・鶏卵・きくらげなどがあり、これらの食品を積極的に摂ることもひとつ。ただし、ビタミンDは油と一緒に調理することで吸収を高める脂溶性の栄養素。水溶性のように体内の余分な栄養素を尿として排出できないため、過剰摂取には注意が必要です。
ビタミンDについて気になる方には、まずは血液検査をおすすめします。検査の結果、ビタミンDが不足しているようであれば、ビタミンDを含む食品やサプリの摂取をはじめ、ほかの栄養素とのバランスを考えた食事を心がけ、妊娠力を高めていきましょう。
ビタミンDは妊娠力を高めるために、どんな働きをしているのでしょうか。AMH、PCOS、着床率との関係など、近年のさまざまな研究報告に基づき、森先生にご説明いただきました。
AMHとは?
AMH(抗ミュラー管ホルモン)は、発育途中の卵胞から分泌される女性ホルモンの一種で、卵巣機能の予備能(卵巣に残っている卵子の数)を知るための指標とされています。
ビタミンD濃度とAMHの関係
40歳以上の女性では、ビタミンDの濃度が低いと、AMHの値も低くなることがわかりました。ビタミンDは日光と関係しているため、夏は血液中のビタミンD濃度が高く、冬は低くなるという特徴があります。AMHもビタミンDと同様の季節性変化を示しており、AMHの値が低くなる冬にビタミンDを食事で摂取すると、この変動がなくなったという報告があります。また別の実験でも、ビタミンDによりAMH値が増加することが示されています。ビタミンD不足の女性にとって、ビタミンDの補充は、妊娠率を高める有効な方法かもしれません。
血液中のビタミンDと着床率
海外の研究では、血液中と卵胞液中のビタミンDは互いに影響しており、ビタミンD濃度が高いと妊娠率が上がるという報告があります。詳細なデータによると、卵胞液中のビタミンDが1ng/mg上がると、妊娠率が6%上昇したとのこと。一方、習慣性流産の方のビタミンD濃度は低いとの報告もあります。ビタミンD濃度が低下すると抗リン脂質抗体、NK活性、抗核抗体、抗DNA抗体の数値が上昇するそうです。あくまで海外の文献ですので、日本人の研究ではどのような結果が出るのか、今後もビタミンDと妊娠率について注目していきます。
ビタミンDでPCOSを改善
ビタミンDはインスリン抵抗性との関連があり、ビタミンD不足は、遺伝的な要因をはじめ、食生活や生活習慣が起因しやすい、PCOS(多嚢胞性卵巣症候群)でも検討されています。ビタミンDとカルシウムの投与で、インスリンの抵抗性、男性ホルモン値、月経周期の乱れ、排卵の改善が見られたという報告もたくさんあります。
草津レディースクリニック
院長 森 敏恵 先生
日本産科婦人科学会専門医、日本生殖医学会会員、日本受精着床学会会員、日本卵子学会会員。滋賀県内の産婦人科などを経て、草津レディースクリニック院長に就任。「お産は感動の連続。自身も妊娠・出産で感じた喜びを、より多くの方に経験してほしい」と、現在は産婦人科医から不妊治療専門医として活躍中。プライベートでは、中学生と小学生2人のお子さんをもつワーキングマザーとして多忙な毎日を送る。そんな先生の最近の楽しみは各地で開催される学会に参加すること。「勉強をかねて、さまざまな土地に行き、いろんな方に出会えることが楽しみです」。